学術研究・活動実績

どろ亀さんの学術研究・実績などを
紹介します。
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林分施業法の確立

 高橋延清氏は、1937年に東京帝国大学農学部林学科を卒業後、同大学農学部附属北海道演習林(森林面積約2万3千ヘクタール)において、36年間にわたって大規模な天然林の経営実験を行った。その理論と実践の成果は、著書『林分施業法(りんぶんせぎょうほう)─その考え方と実際─』に集大成されている。広く認識されているこの択伐林(たくばつりん)施業は、天然林を構造を異にする林分(森林施業上の基礎単位)に区分し、それぞれの林分ごとに最も適した施業を行っていくものである。

 この森林管理の基本的な考え方は、森林がもつ環境保全などの“公益的機能”と、木材生産の“経済的機能”を両立させ、しかも両機能を高度に維持・発展させることを主眼としている。

 林分施業法による成果である同演習林は、自然の調和、すなわち森林生態系の諸法則が基調なため、多種多様な生物(樹木・動物・植物・菌類を含む微生物など)の繁殖、遺伝子資源が保全されている。 この天然施業林はその規模においても他に例がなく、真の意味で『持続しうる豊かな森』として、さらには世界でも有数の美林、森林モデルとして、国の内外より高い評価を得ている。

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林分施業法 -その考えと実践-
林分施業法(1971年)販売終了
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遺伝子資源の保全と
利用に関する研究

 林分施業法の研究と並行し、遺伝子資源の保全とその利用について研究し、その成果は北方系樹種の遺伝子資源のコレクションと、遺伝育種に関する業績で示されている。とくにコレクションはわが国最大のスケールをもち、これをもとに欧米をはじめとした数多くの国々との研究交流が活発に続けられている。

 また本施業法の実験においても、遺伝形質の優れたものを積極的に登録・確保するなど、天然林生態遺伝の研究を推進する上で、欠くことの出来ない貴重な保存・見本林、樹木園、資料を残した。

『樹海碑』の建立

 東京大学北海道演習林の美しい大森林の景観を永遠に伝承すべく願いを込めて、1968年に北海道開拓百年記念事業として樹海碑の建立を企画、その協賛会長として力を尽くした。

 国道38号線沿いにある樹海碑から展望される面積は11,000ヘクタールにおよび、針葉樹と広葉樹が混交する北方林の原生の姿を呈しており、この奥地林は同年に鳥獣保護区に指定されている。

 ここから展望できる大樹海は、『21世紀に残したい日本の自然100選(朝日新聞社・社団法人森林文化協会)』に選ばれ、今日、ここを訪れる人々に感銘を与えている。

科学映画『樹海』を制作

 1972年、広く森林・林業に対する世論の関心を高めるために、科学映画『樹海』(第1部・北国の森林─生いたちといとなみ─、第2部・天然林を育てる─その理論と実際─)を制作した。同演習林を舞台に、林分施業法の成果を記録映画にしたもので、林業関係者はもとより一般の人々に対して、森林についての正しい理解と合理的な取り扱い方について、教育・普及活動の一環を担い、その反響・効果はきわめて大きかった。

 この映画は文部省特選となり、産業映画コンクール文部大臣賞をはじめ、科学技術映画祭入選、東京都教育映画コンクール銀賞などを獲得。また2年後には海外にも普及すべく英語版を制作している。

研究・技術の国際交流

 高橋氏は、北方林帯に属するヨーロッパや北米諸国の森林・林業の実態調査や視察を通して、活発に活動した。1954年から翌年にかけて、スウェーデン・デンマーク・ドイツ・アメリカ合衆国など8ヵ国で、林木育種事業と天然林施業に関する技術の調査・研究を行った(「林業解説シリーズ79、林木育種の旅1955」)。

 また1978年には、北方林業会の視察団長としてヨーロッパ各国を視察し、研究・技術の交流、親善を深めた(「ヨーロッパの林業─北方林業会視察団報告1979─」)。

 1991年には高橋氏を中心に東京大学5名の調査班を編成して、ドイツ、旧チェコスロバキアの酸性雨による森林衰退の実態調査にあたり、その調査報告で森林管理のあり方と方策を提言するなど、地球環境の立場から森林保全に関する貴重な指針を示した。

森林団体の指導者として活躍

 高橋氏はわが国の、そして北海道の林業の発展のために東京大学在職中から数々の森林関係団体の指導者として、緑化・自然保護その他森林問題に関する普及・指導など幅広い活動をしていた。とくに森林・林業の活動現場において、国有林・道有林の林業技術者はじめ、地方自治体や民間の多くの林業家の知識と技術の向上に、多大な尽力をしている。

 昭和47年、札幌冬季オリンピック開催時には、昭和天皇皇后両陛下に「森林の働きと新しい林業経営」と題してご進講した。

 昭和63年には屋久島でシンポジウムを開催し(グリーンルネッサンス主催)、この活動が屋久島ロープウェイ開発取消しの大きな要因となり、縄文杉保護への布石となった。

 平成元年以来、北海道ボランティアレンジャー「山川草木(さんせんそうもく)を育てる集い」の指導者として各地で植樹運動の先頭に立った。

 平成2年には、自然と共生する豊かな心を取り戻そうと「日本の滝100選」運動(グリーンルネッサンス主催)を起し、全国から34万通もの応募を集め、全国的に滝を見直す契機となった。

森林・自然保護に対する
教育啓蒙活動

 森林の重要性、また自然保護についての考え方などを啓蒙した役割は、極めて大きい。全国の講演会などに招かれ、長年にわたる森づくりの体験や森林の世界の美しさなどを広く一般に伝えた。独特の語り口調は聴く者の自然への関心を呼び覚まし、また緑を求める現代人に、自然を愛し守ることの大切さを訴え続けた。

 著書『樹海に生きて』や『森に遊ぶ』などでうかがい知ることが出来るが、『詩集・どろ亀さん』こそは、人間と自然界の橋渡し役として活躍する、氏ならではの真骨頂である。

主な試験研究発表・論文

(◎印は林分施業法関連、○印はグイカラマツの育種に関連する研究論文)

1944年
(昭和19年)
『北海道演習林に於ける林内植民の研究』(東大・演報 高橋延清・高橋武一)
1949年
(昭和24年)
『北海道演習林内植民地における農・畜・林鼎立経営方式の基礎資料(林内植民研究第二報)』
(東大・演報 高橋延清・高橋武一)
1950年
(昭和25年)
『北海道における生籬・防風林に好適するニオイヒバについて』(北林試講演集)
1951年
(昭和26年)
『北海道におけるストローブマツの造林的価値』(演習林・東大)
1952年
(昭和27年)
『樹木立体農業の重要性』(農業北海道)
『林内過放牧によるクマイザサ撲滅経過報告(農・畜・林綜合経営方式の基礎資料その2)』(演習林・東大)
『野草サイレージ造成試験(農・畜・林綜合経営の基礎資料その3)』(日林北支講)
1953年
(昭和28年)
『国有林の経営批判─北海道を主題として─』(グリーンエイジ)
1954年
(昭和29年)
『焼地ゴシラエの一資料』(林、高橋延清・岩本巳一郎)
『ストローブマツ、欧州トウヒのパルプ用材造林法』(パルプ用材育林叢書、第6篇)
1955年
(昭和30年)
『期待される外来樹種──上巻.ストローブマツ、ヨーロッパトウヒの項』(外国樹種導入研究会刊)
1956年
(昭和31年)
『蜜源植物の開花期と流蜜の資料』(月刊ミツバチ)
1957年
(昭和32年)
『トドマツの“つぎ木”技術』(北方林業、高橋延清・倉橋昭夫)
1958年
(昭和33年)
『つぎ木の実際』トドマツ、エゾマツの項担当(全国山林種苗共同組合連合会,高橋延清・倉橋昭夫)
『外国との育種材料の交換について』(林木の育種)
『東大演習林における林木育種の研究』(北方林業)
『プラス木プラス林分の選抜法』(北海道林木育種協会)
『早期育成林業』ストローブマツ及び東大北海道演習林における外国樹種見本林の項担当
(森林資源総合対策協議会編)
『主要広葉樹類の選抜育種に関する研究(Ⅰ)』(昭和33年農林漁業試験研究報告書,陣内巌・高橋延清)
1959年
(昭和34年)
○『エゾヤチネズミに対するカラマツ類の抵抗性』(北海道の林木育種、高橋延清・西口親雄・有沢浩)
○『信州カラマツの耐鼠性』(北方林業、高橋延清・西口親雄・倉橋昭夫)
○『マツ類の耐鼠性(予報)』(日林北支講、高橋延清・西口親雄)
『主要広葉樹類の選抜育種に関する研究(Ⅱ)』(昭和34年農林漁業試験研究報告書、陣内巌・高橋延清他)
1960年
(昭和35年)
『導入外国樹種の病害虫に対する報告(昭和35年度中間報告)』(平塚直秀・高橋延清・佐保春芳他)
○『各種カラマツ類の落葉病に対する抵抗性比較(予報)』(日林北支講、高橋延清・佐保春芳)
○『北海道における造林と育種の問題』(北海道林木育種)
『主要広葉樹類の選抜育種に関する研究(Ⅲ)』(昭和35年農林漁業試験研究報告書.陣内巌・高橋延清他)
1961年
(昭和36年)
      
◎『天然林施業法概論(続)─演習林における歴史と実験─』(北方林業、高橋延清・朝日正美・岩本巳一郎)
○『カラマツ類の品種改良に関する研究(第一報)─グイマツとニホンカラマツ人工交雑種苗の成長と2、3の特徴─』(日林北支講、高橋延清・功力六郎・柴田前)
○『カラマツ類の品種改良に関する研究(第二報)、カラマツ類の季節調査資料(予報)』(日林北支講、高橋延清・功力六郎)
○『カラマツ類の品種改良に関する研究(第四報)、─チョウセンカラマツ×ニホンカラマツ天然雑種苗の成長と2、3の特徴─』(日林北支講,高橋延清・柴田前)
○『カラマツ類の品種改良に関する研究(第六報)、雑種カラマツ苗の耐鼠性検定(グイマツ×ニホンカラマツ、ニホンカラマツ×グイマツ、チョウセンカラマツ×ニホンカラマツ)について』(日林北支講、高橋延清・西口親雄)
○『カラマツ類の品種改良に関する研究(第三報)、グイマツ林からとった種子の天然雑種苗(グイマツ×ニホンカラマツ)の出現度合』(日林北支講、高橋延清・柴田前)
○『カラマツ類の品種改良に関する研究(第五報)、雑種カラマツの造林初期における成長比較(予報)』(日林北支講,高橋延清・岩本巳一郎)
◎『林分施業法概論-演習林における歴史と実験-』(北方林業)
1962年
(昭和37年)
○『カラマツ類の育種』(73回日林講)
1963年
(昭和38年)
○『カラマツ天然雑種
─東大北海道演習林で生産されている実例─』(北方林業)
○『主要造林樹種の野鼠、野兎の野外食害実験』(日林北支講、高橋延清・岩本巳一郎)
○『カラマツの品種改良に関する研究(第七報)、グイマツ、マンシュウカラマツ、ホクシカラマツとニホンカラマツの人工雑種苗の成長と2、3の特徴』(74回日林支講、高橋延清・功力六郎)
1964年
(昭和39年)
○『東大北海道演習林における林木育種のあゆみ』(北海道の林木育種)
1965年
(昭和40年)
『育成林業の変革と育苗の問題点──北海道を対象として──』(北海道の林木育種)
『薬剤散布による人工造林法の技術開発(予報)』(日林北支講、高橋延清・岩本巳一郎・高橋武一・武井直人・仁原勝男)
『薬剤による天然更新法の技術開発』(林業と薬剤、高橋延清・岩本巳一郎)
○『カラマツ類に対する野鼠の嗜好性機構について(予報)』(日林北支講、高橋延清・西口親雄・飯塚徳義)
『乾きやすい土壌における植裁樹種の生長について』(77回日林講、高橋延清・岩本巳一郎)
1966年
(昭和41年)
○『林木の耐鼠性に関する研究(Ⅰ)、針葉樹苗に関するエゾヤチネズミの摂食嗜好性』(東大演報、高橋延清・西口親雄)
○『林木の耐鼠性に関する研究(Ⅱ)、雑種カラマツ苗に対するエゾヤチネズミの摂食嗜好性』(東大演報、高橋延清・西口親雄)
○『カラマツ属の耐鼠性育種』(林木の育種、高橋延清・西口親雄・飯塚徳義)
○『東京大学北海道演習林内で発生したカラマツ先枯病』(北方林業、高橋延清・佐保春芳・飯塚徳義)
1967年
(昭和42年)
『省力造林法の技術開発その1、クマイザサ地における薬剤散布による人工造林法』(日林北支講,高橋延清・岩本巳一郎・武井直人)
『省力造林法の技術開発その2,ミヤコザサ地における人工造林法(予報)』(日林北支講、高橋延清・岩本巳一郎・岩田豊)
○『雑種カラマツの生長比較(8年経)』(78回日林講,高橋延清・岩本巳一郎・柴田前)
○『カラマツ類交雑種の耐兎性』(日林北支講、高橋延清・倉橋昭夫)
1968年
(昭和43年)
○『frost-hardiness of the Japanese and the Dahurian Larch and their hybrids』(東大演報、Hamaya.T、A.Kurahashi、N.Takahashi、A.Sakai)
○『カラマツ類の交雑育種に関する研究とその実用化』(林木の育種)
『雑種カラマツの生産と利用』(北海道林木育種協会、高橋延清・柳沢聡雄・久保田泰則)
1969年
(昭和44年)
○『「北海道森林施業の現状と展望」に関する調査報告書(東大北海道演習林における森林施業の歴史と現状)担当』(林野庁編)
『林業経営と更新技術 (北海道における広葉樹の更新技術)担当』(日本林業調査会編)
○『カラマツ属の交雑育種の現状』(北海道の林木育種)
1971年
(昭和46年)
◎『林分施業法─その考えと実際─』(全国林業改良普及協会)
1972年
(昭和47年)
◎『ご進講された森林の働きと新しい林業経営』(林業労働災害防止協会)
○『Improvement of larch through hybridization in Japan』
(IUFRO Genetics SABRAO joint Symposia,N.Takahashi、 and Hamaya.T)
『東京大学北海道演習林育種樹木園における、外来樹種の初期生育状況』(東大北海道演習林刊.高橋延清・濱谷稔夫・倉橋昭夫)
1973年
(昭和48年)
『富士高地産カラマツの樹型変革と北海道における次代の生育』(日林北支講、倉橋昭夫・高橋延清・佐々木忠兵衛・浜谷稔夫)
『トドマツとシラベの種間雑種の諸特性』(日林北支講、倉橋昭夫・高橋延清・佐々木忠兵衛・浜谷稔夫)
『グイマツとカラマツの雑種各種の耐鼠性』(日林北支講、小笠原繁男・高橋延清・倉橋昭夫・浜谷稔夫)
『日本におけるカラマツ交雑育種』(北海道の林木育種、高橋延清・浜谷稔夫)
1974年
(昭和49年)
『北海道演習林育種樹木園における外来樹種の初期生育状況』(演習林(東大)、高橋延清・浜谷稔夫・倉橋昭夫)
1979年
(昭和55年)
◎『林分施業の理論と実際』(日本林学会、九州支部研究論文集第32号)
1933年
(平成5年)
◎『林分施業の理論と実際』(日本学術振興会、学術月報通巻第578号)